まゆびらき日記

虚実ないまぜの日記と小説。

お刺身に秘められた回復の力

 仕事を終えたあと床に転がってスマホを見ていたらいつのまにかパートナーが帰ってくる時間だった。ごはん、作ろうと思っていたのに。彼女の放った「外食しちゃう?」の言葉に私は飛びついた。節約しなきゃとか、感染が心配とか、そういう言葉は瞬時にどこかに飛んでいった。どうしても、お蕎麦が食べたかった。

お店に到着すると明るくて親しみのある接客をしてくれる大好きな店員さんが待っていてくれた。「月末だしお蕎麦とセットの天ぷらくらいにしよう」と話していたはずなのに、またしても誘惑に負け、刺身の盛り合わせを頼んでしまう。彼女は日本酒を頼んでいる。ついつい一口もらってしまう。甘エビはとにかく甘く、しめ鯖は柔らかい口当たりで酸っぱさを感じず優しい後味を残す。まぐろもここで食べるものは格別に美味しく感じる。理性などというものは脆いものだ、と感じながらもう一品、今度はあたたかいものを、と揚げ出し豆腐を頼んでしまう。

でも、今日はそうする必然性があったと思う。ここしばらく二人でかわるがわる自炊をしていた。そして、リモートワークでの仕事はオフィスや取引先に行ってする仕事より随分疲れる。同僚と雑談することも移動時間にぼんやりすることもなく、ただひたすらに画面に向かい続けなくてはならない。姿勢もずっと同じ。フルタイムの仕事をこなし続けて、木曜日。疲労が溜まっている。

美味しい食事を満足いくまで食べて、店員さんと少しお喋りをして、美味しいお酒をいただいて。疲れはすぐに楽しい気持ちに変わった。たまにはこんな日も必要だ。このご時世、なかなかできることではないけれど。

店内はコロナウィルスの影響で閑散としていた。最近はお客さんが来ず早く店じまいをする日もあるという。また店の営業時間を短くする要請が出そうな状況でもある。この美味しいごはんを食べさせてくれる優しいひとたちがなんとか、ごはんをちゃんと食べて、生き残っていけますように、と祈りながら帰路についた。