まゆびらき日記

虚実ないまぜの日記と小説。

20231115 たんぱく質が心を救う

「デラックス」
 ただ一言が記されたそのボタンは、とてつもない魅力を放っていた。他の選択肢と迷うふりをしながらも、そこから目が離せない。
 いつもなら、肉うどんか天ぷらうどんを頼む。どちらを頼んでも六百円以内で食べられるという素晴らしい店だ。
 しかし今日は、どちらにも決められなかった。
 今月は月初にたくさんのものを買ってしまい、これからコンサート代の支払いも予定されているので、節約しなければならなかった。でも、一日の仕事を乗り切った自分へのご褒美がほしい。数百円の奮発なら、いいんじゃないか。ボーナスもうすぐ入るし。
 決めきれずに少し後ろのお客さんを待たせてしまったが、結局「デラックス」のボタンを押した。何が来るのかとそわそわする。券売機には「デラックス」がなんなのかという写真も説明書きもなかった。肉うどんを食べたいけれど、でも野菜の天ぷらは食べたくて、でも野菜天ぷらは単体で売っていなかったから、どうしようかと迷っての「デラックス」。私のニーズを満たすものが出てくることを期待した。
 ほどなくして「デラックスご注文の方」と厨房からぶっきらぼうな声で呼ばれる。この店はヤンキーっぽいお兄ちゃんや外国にルーツがあるように思われる方、頑固そうなおじちゃんなど多種多様な人が働いているのだけれど、皆一様に愛想がない。そこがまたいい。素っ気ないながらこちらを気にはかけていて、店がすいているときは座って待たせてくれるし、券売機の使い方のわからないおじいちゃんにはこっそり現金払いを許可してくれる。
 カウンターに向かうと、うどんの入ったどんぶりの横に、四角くて平たい皿が載っている様子。おっ。いつもは天ぷらがうどん汁にぶちこまれているけれど、今日は違うんだ。さすがデラックス。私はあまり天ぷらの衣が汁でふやけすぎるのを好まない。えび天の衣がふやけてえびから剥がれ落ちてしまったりすると悲しくなるから、ちょっと濡れたくらいで食べるのがいい。だから別皿に載せてくれるのは助かる。
 トレーを受け取って驚いた。
 うどんのどんぶりの半分には、豚バラ肉。そしてもう半分には、細く切られたお揚げが浮かんでいる。横の皿には、どうやらエビ天とサツマイモ天。そして中身のわからない何かの天ぷら。
 なんだこれは。肉うどんと天ぷらうどんのミックスじゃないか。私が迷って決められなかった二つのうどん同士が融合し、さらに大量のお揚げというおまけまでついている。でも値段は、二倍にはならない。たったの数百円増えただけ。な、なんてお得なんだ……。
 ほくほくしながら黄金色の汁をすすり、肉を散らされた葱と共にほおばる。そういえば何かわからなかった天ぷらの中身はなんだろう。汁に少しつけてから、一口食べてみる。
 なんとそれは、とり天であった。
 鶏肉に、豚肉に、海老に、油揚げ。
 たんぱく質天国じゃないか。
 今日は朝から、大量の仕事を前にずっと眉と眉の間に皺を寄せ、目を細めてパソコンを睨みつけながら作業をしていたのに、私の目はいつのまにかカッと見開かれていた。夢中でたんぱく質をむさぼり食う。おいしい。たんぱく質は元気の源。身体中にエネルギーがみなぎってくる。
 正直言って、バランスの悪い食事ではあった。うどんに散らされた葱と、さつまいも天くらしか野菜がとれていない。でも私は幸せだった。

 

 またちょっとしたご褒美がほしい日、「デラックス」のおうどんを食べよう。